ごこうは、なぜ濃厚に感じるのか

抹茶を求めに来る海外の方に最近よく尋ねられる品種があります。

「 ”ごこう(GOKOU)”はありますか?」と。

ごこう特有のミルクのような濃厚さが海外の方には好まれるようです。

ただ、どのような食物でも言えることですが、その植物の味は品種だけで決まるものではありません。
ナスもきゅうりもスイカも苺も同じ品種でも地域や生産者により味は異なります。

これは抹茶にも同じことが言えます。
同じ品種でも、土地、施肥、覆い、摘採時期、製茶によって香味は大きく変わります。
”美味いごこう”の抹茶もあれば、香りがなく少し酸っぱさを感じさせる”あまり美味しくないごこう”もあります。

それでも、品種には確かに固有の性質があります。

大切なのは「ごこうだから濃厚」と単純化することではなく、ごこうという品種の性質を、茶園がどう見極め、どう仕立てたのかを見ることです。

今回は、当店でオリジナルで販売する「ごこう」を仕立ててくれた京都・京田辺の祥玉園の抹茶をもとに、品種そのものの特徴、摘採時期、覆い、そして実際の官能評価から、
ごこうの濃厚さについて考えてみたいと思います。

 

ごこうという品種

ごこうは、もともと玉露向けとして育成された品種です。

宇治の在来種から選抜された茶で、昭和29年(1954年)に京都府の茶業研究所にて育成が始まったと伝えられています。

旨味と甘みが強く、覆い下で育てたときに個性が出やすい性質を持っています。

実際に飲むと、単純に「旨味が強い」というだけではありません。
舌の上に、とろんとした厚みが残り、香味全体に丸みがあります。

その質感が、どこかミルクを思わせるようなとろみのある印象につながります。

ごこうを飲んだときに感じる「濃厚さ」は、

旨味、甘み、香り、口当たり、余韻。

それらが重なって生まれているものだと思います。

ただ、もともと玉露としての品種だったので抹茶の原料であるてん茶用に使うにはネックもあります。

 

玉露と同じようには摘むべきでない

茶は、若ければ若いほどよい。

青々とした色は新鮮で、生命力に満ちているのでそう思われることもありますが、実際の茶づくりはそれほど単純ではありません。

「ごこう」は成長が進むにつれて、官能的に酸っぱさを感じる方向へ動くことがあります。

そこを施肥や栽培管理によって調整しながら、どこまで芽を育て、どの時点で摘むかを見極める。
そこに茶園の技術があります。

 

ごこうにも、摘採時期による難しさがあります。

摘む時期が早すぎると、ごこう特有の少し癖のある臭い香りが出ることがあります。

ここでいう「臭さ」は、腐敗臭のような意味ではありません。

あくまで官能的に感じる、ごこう特有の癖です。

あさひのように、比較的そうした癖が出にくい品種もあります。

 

一方で祥玉園では「ごこう」を摘む際に、芽の状態を見ながら摘採を一週間ほど遅らせることで、
この香りの印象を変えることが出来ています。

祥玉園から聞いた中で、非常に印象に残ったのが、

「臭い葉は、摘みを遅らせる」

という言葉でした。

ただし、単純に遅く摘めばよいという話ではありません。

摘採を遅らせれば、葉は成長します。
葉が成長すれば、味わいも変化します。

その変化を施肥や栽培で整えながら、どこで摘むのかを見極める。

そこに、茶園の技があります。
「ごこう」なら全て同じ味にならないのはこうゆう理由があるのです。

 

癖のある香りを、甘い覆い香へ

そして、ごこうでもうひとつ重要なのが「覆い」です。

覆い下で育てることで、茶には独特の覆い香が生まれます。

ごこうの場合、摘採時期と覆いの状態を見極めることで、早摘みのときに感じられる品種特有の癖が弱まり、より甘い香気へと変わっていきます。

つまり、もともと持っている香りをそのまま受け入れるのではなく、

どこまで芽を育てるか。
いつ摘むか。
どう覆うか。

その組み合わせによって、ごこうの香りを整えていく。

今回、丸竹夷で扱うごこうは、祥玉園が自園でそうした見極めをしながら仕立てたものです。

品種が同じだから、味も同じになるわけではありません。

もともと玉露向け品種である「ごこう」という素材をどう育て、どう摘み、てん茶に仕立てていくか。

そこに生産者の技術が現れます。

 

実際に飲むと、メロン、蜜香、ウォームミルク

今回、「ごこう」を新商品として販売するに当たり、
私がテイスティングして、まず感じたのは、メロンや蜜を思わせる甘い香りでした。

その奥に覆い香があり、さらにウォームミルクのようなクリーミーな印象があります。

これは、ごこうについてよく言われる「ミルキー」という表現ともつながります。

ただし、ここでいうミルキーさは、単に舌触りが柔らかく濃いという意味ではありません。

 

旨味の厚みと甘い香気。

なめらかな口当たり。

そして、口の中に残る余韻。

 

それらが重なった結果として、ミルクを思わせるような感覚が生まれています。

旨味はしっかりしていますが、玉露品種だけあり渋みは穏やか。

厚みがありながらも、全体としては飲みやすい。

これが、今回のごこうに対する丸竹夷としての官能評価です。

 

京都府産の「ごこう」で仕立てたシングルオリジン
Maru-Take-Ebisu GOKOU
ごこうらしい濃厚な旨味を持ちながら、摘採時期と覆いによって香りの癖が整えられ、甘い香気が引き出されています。
A rich umami with Gokou’s signature depth, balanced by sweet aromas developed through careful shading and harvest timing.
30g入り価格:4,800円(税込)

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なぜ海外でごこうが人気になったのか

ごこうは、もともと華やかな香りで評価されてきた品種ではありません。

むしろ香りの弱さから、以前はそれほど人気の高い品種ではなかったと聞きます。

ところが近年、海外ではごこうの人気が非常に高くなっています。

いったい、なぜなのでしょう?

 

これはあくまで丸竹夷としての推測ですが、ひとつの理由は「抹茶ラテ」ではないかと考えています。

ごこうには、強い旨味と甘み、そしてミルクを思わせるような厚みがあります。
この特徴は、牛乳と合わせたときに非常に相性がよい。

一方で、薄茶や濃茶で点てると感じられる抹茶の繊細な香りは、ミルクを加えることで感じにくくなります。

つまりラテにすると、

ごこうの弱点になり得る香りの部分は目立ちにくくなり、旨味、甘み、ミルキーな質感といった長所が前に出る。

それが、海外でごこうが受け入れられた理由のひとつではないかと思っています。

そして他の品種と比べて、苦みが比較的穏やかなのも薄茶で飲む海外の人にとっては飲みやすいのかも知れません。

ラテに向くことと、薄茶としておいしいことは別

ただ、今回新商品を販売するに当たり丸竹夷としては、

「ラテにすれば美味しいから」という理由だけで、ごこうを選びたくはありませんでした。

そして、そんなに問い合わせが多いなら丸竹夷として徹底的に美味い「ごこう」を作ろうと
さまざまな茶園の茶葉を飲み、試行錯誤を繰り返しました。

ラテにすれば、ミルクが香りを包みます。
だからこそ、単一品種として販売するのであれば、薄茶で飲んだときにもきちんと成立するものを選びたいと思っていました。

今回のごこうには、

メロンのような甘い香り。
蜜を思わせる香気。
ウォームミルクのようなクリーミーさ。
厚みのある旨味。
穏やかな渋み。

それらがひとつにまとまっています。

ここまで味を引き出すことが出来たのは、ブレンダーとして協力していただいた祥玉園の茶師小林氏のおかげです。

ごこうの濃厚さを残しながら、香りの癖を整え、薄茶でも飲みやすく仕立てられている。

そこが、今回この「ごこう」を選んだ理由です。

 

品種だけで語らない。けれど、品種を無視もしない

抹茶を品種だけで語ることには、やはり限界があります。

同じごこうでも、土地が違えば味は変わります。

施肥が違えば、味の力強さも変わります。

摘採日が違えば、旨味の印象も変わります。

覆い方が違えば、覆い香の質も変わります。

製茶が変われば、口当たりや余韻も変わります。

 

だから、品種名だけを見て「この抹茶はこういう味だ」と断定することはできません。

一方で、品種には確かに性質があります。

 

ごこうには、ごこうらしい厚みがある。

さみどりには、さみどりらしい柔らかさがある。

うじひかりには、うじひかりらしい優しい香りがある。

その品種の性質を、茶園がどのように引き出したか。

そこまで見て初めて、一杯の抹茶を理解できるのだと思います。

シングルオリジンの魅力は、そうした一種の裸のような状態で飲むことができる奥深さにあるのかも知れません。

 

合組ではなく、単一品種で飲む意味

抹茶は本来、合組(ブレンド)によって味を整える文化があります。

複数の品種や茶園の茶を組み合わせ、茶師がひとつの完成された味に仕立てる。

それはブレンダーとしての本質でもあり、抹茶の大きな魅力です。

一方で、単一品種で飲むと、その品種そのものの輪郭が見えてきます。

ごこうの厚み。
さみどりの柔らかさ。
うじひかりの香り。
やぶきたの渋み。

それぞれを単独で飲むことで、合組の中では見えにくかった品種の性格を知ることができます。

 

そして、単一品種を知ると、逆に合組の面白さも見えてきます。

それぞれの欠点を補い、異なる品種同士を掛け合わせることで絶妙な味わいに仕上げていく。

なぜこの抹茶には、この厚みがあるのか。
なぜ、この香りが残るのか。

その背景にどの品種が使われているのかを考えられるようになります。

 

ごこうは、なぜ濃厚に感じるのか

改めて考えると、ごこうの濃厚さは、単純に旨味が強いからだけではありません。

玉露用品種として持つ強い旨味と甘み。

ミルクを思わせるような厚み。

摘採時期によって整えられた品種特有の香り。

覆いによって引き出された甘い香気。

そして今回のロットでは、そこにメロンや蜜香、ウォームミルクを思わせる香りが重なっています。

それらすべてが合わさって、ごこうらしい「濃厚さ」になっているのだと思います。

 

今回、丸竹夷では祥玉園が自園で仕立てたごこうを、合組せず、単一品種の抹茶として販売します。

人気のある「ごこう」という名前だけで選んだものではありません。

ごこう特有の癖を見極め、摘採を調整し、覆いによって甘い香気を引き出したもの。

その仕立てまで含めて選びました。

ラテにすると、もちろん相性のよい品種です。

ただ、まずは薄茶で飲んでみてほしいと思っています。

ごこうは、なぜ濃厚に感じるのか。

その答えを、一服の中で確かめていただければと思います。

丸竹夷 シングルオリジン抹茶 ごこう(GOKOU)など全5種類、発売しました。

単一品種ならではの輪郭とともにお楽しみください。

 

 

丸竹夷のシングルオリジン抹茶
京都府産の「ごこう」で仕立てたシングルオリジン
Maru-Take-Ebisu GOKOU
ごこうらしい濃厚な旨味を持ちながら、摘採時期と覆いによって香りの癖が整えられ、甘い香気が引き出されています。
A rich umami with Gokou’s signature depth, balanced by sweet aromas developed through careful shading and harvest timing.
30g入り価格:4,800円(税込)

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執筆者
成沢 崇
京都アンテナショップ丸竹夷 店主

宇治茶・抹茶専門店として、宇治の茶農家や製茶問屋と対話を重ねながら、国内外のお客様へ抹茶をご紹介しています。
日々さまざまな抹茶を試飲し、その土地ならではの個性や背景をお伝えすることを大切にしています。

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