お米と抹茶は、驚くほどよく似ている。価格の裏側にある本当の話

お米と抹茶は、驚くほどよく似ている

 

最近、店頭で接客していると国内外問わずお客様から「なぜ抹茶の価格が上がっているのですか」と聞かれることが増えました。

そんな中、私はあるお米に関する書籍を読みました。

宝島社新書から出版されている『コメ高騰の深層 JA農協の圧力に屈した減反の大罪』という本です。

元農水官僚の人が書いているのですが、お米の価格高騰の背景を、生産・流通・政策の視点から考察した内容でとても興味深く読むことができました。

特に市場の法則から逸脱した歪な流通のカラクリは抹茶とそっくり!

そして読み進めるうちに、

「これは今、宇治の抹茶の現場で起きていることとも重なる部分があるな」

と感じたのです。

 

ニュースと、実際の現場感覚の「差」

お米の価格は、本当にこのまま高いままなのでしょうか。

高校の同級生が福島県でお米の流通に携わっている会社をやっていて、話しをしていたんですが、

ニュースでは連日のように米価高騰から一転して価格が下がっていると報じられていますが、現場にいる彼は意外なことを口にしました。

「まだ、下がる可能性はあると思うよ」

もちろん、将来の価格を正確に予測することは誰にもできません。

しかし、現場で実際に流通に関わる人と話していると、ニュースの表面的な報道と、現場感覚には少なからず差があることに気付かされます。

 

・どこにどれだけの在庫があるのか。

・誰が、どのタイミングで売るのか。

・流通のどの段階で価格が決まるのか。

 

消費者からは見えない要素が、裏側には数多く存在しているのです。

数字だけでは見えない、抹茶の裏側

私はその話を聞きながら、「これは抹茶も同じだな」と感じていました。

抹茶もまた、価格だけを見れば値上がり傾向にあります。
2026年の一番茶も1.5倍以上の値上がりです。
(そろそろ皆様に価格改定のお知らせをすることとなりそうです。)

しかしその背景には、茶園の現状、その年の生産量、碾茶(てんちゃ)の品質、石臼加工能力の限界、
そして急速に高まる海外需要など、数字だけでは見えない多くの要素が複雑に絡み合っています。

 

近年、私たちに店がメインで取り扱っている京都・宇治周辺では抹茶需要が世界的に高まる一方で、それを支える生産現場ではさまざまな課題が生じています。

茶農家の高齢化。

良質な碾茶の不足。

そして、一時間にわずか30〜40グラムしか挽くことのできない伝統的な石臼加工。

 

実際に、私がお世話になっている茶園や製茶工場からも、値上げや数量制限の話を聞く機会が増え、
特に抹茶ラテなどでも使われる加工用に関してはすでに値上げとなっている商品もあります。

実際に当店でも加工用の抹茶は6月から仕入れ価格が1.5倍に上がって驚いていますが、
特に今年に関しては、濃茶グレードはまだ落ち着いていますが、いわゆる加工用に使われる下のランクの抹茶が需要が急増しています。

日本でもコンビニやファストフードなどあらゆる所に抹茶メニューが増えました。
ここで使われているのが加工用抹茶と呼ばれる価格ラインの商品で市場では取り合いになっています。

これまで当たり前に仕入れることができた抹茶が、今後も同じように確保できるとは限りません。

 

だからこそ私は、今まで以上に茶園や加工現場へ足を運ぶようになりました。

石臼加工の現場を訪れ、生産者や職人の方々と話を重ね、実際に畑を歩く。

そうした時間の中で見えてくるものがあります。

これは単なる仕入れのためではありません。

 

表面的な価格や情報だけに惑わされず、「なぜこの抹茶なのか」という背景を、自分自身の目で確かめ、お客様にお伝えしたいからです。

”誰が作ったか” にこそ価値がある

スーパーでお米を買うとき、それがどこの誰によって作られたものなのかを意識する機会は多くありません。

抹茶も同じです。

パッケージの商品名だけでは、どのような土地で育ち、どのような人が作り、どのような工程を経て完成したのかは見えにくくなっています。

しかし本来、味の違いはそこから生まれます。

同じ宇治抹茶であっても、作り手や土地が違えば味わいも大きく変わります。

それは「ごこう」や「さみどり」といった茶の樹の品種の違い、肥料の与え方の違いなど本当に様々です。

だからこそ私は商品だけではなく、その背景にある物語や風景も大切にしたいと考えています。

抹茶を通して、日本の美しい茶産地を旅する

例えば日本では、コーヒーは「ブレンド」として楽しまれることが少なくありません。

喫茶店ごとの個性や、焙煎士が作り上げる味のバランスに価値を見出す文化があります。

一方で、近年のコーヒーの世界では農園や産地に注目する「シングルオリジン」という楽しみ方も広がっています。

日本でも喫茶店に行けばモカやグアテマラという単一品種のメニューはありますが、大抵は一番上にブレンドとして
存在しています。

ワインの世界では品種やシャトー(ワイナリー)が語られます。

コーヒーの世界では農園や産地が語られます。

抹茶も本来、もっと自由に背景が語られてよいものだと思います。

「ごこう」

「さみどり」

「うじひかり」

品種によって、驚くほど香りや味わいの個性が変わります。

さらに同じ品種であっても、育った土地や生産者によって全く異なる表情を見せてくれます。

実際に海外のお客様とお話ししていると、

「どこの産地なのか」

「どの品種なのか」

「誰が作ったのか」

という点に強い関心を持たれることが少なくありません。

私自身、その姿を見ながら、抹茶もワインやコーヒーのように産地や品種の個性を楽しむ時代に入っているのではないかと感じています。

ただ、日本の文化とも言えるこのブレンド(合組)は茶師である職人の技が光るもの。
これはこれで私たちは大事にしていきたいと思っています。

 

私はこれからも、価格だけでは見えない背景や、生産者の想い、そして土地ごとの個性を一杯の抹茶とともにお届けしていきたいと思っています。

お米に産地や生産者の違いがあるように、抹茶にも土地ごとの個性があります。

同じ宇治抹茶でも、品種や産地、農家さんによって驚くほど表情が変わります。

もし機会がありましたら、ぜひ飲み比べてみてください。

一杯の抹茶の向こうにある風景が、少し見えてくるかもしれません。

産地の個性を、一杯の物語とともに

丸竹夷では、私自身が現地を訪れ、生産者の方々と対話し、納得して仕入れた抹茶をご紹介しています。

そして、私は時間を見つけては今まで扱ってこなかった産地へと旅をして、新しい抹茶を探しています。

価格や流行だけでは見えてこない、本当の味の違い。

 

安い、高いではなく、その一杯に込められた土地の個性や物語を、専門店として発信し続けて行こうと思います。
これからのラインナップもぜひお楽しみにしていてください。

抹茶一覧はこちら

※ECサイトに移動します。

執筆者

成沢 崇

京都アンテナショップ丸竹夷 店主。

宇治茶・抹茶専門店として、宇治の茶農家や製茶問屋と対話を重ねながら、国内外のお客様へ抹茶をご紹介しています。

日々さまざまな抹茶を試飲し、その土地ならではの個性や背景をお伝えすることを大切にしています。