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抹茶だけが高くなったのではない|2026年、京都の一番茶で起きていること
碾茶だけでなく、煎茶、玉露、かぶせ茶などにも広がる価格高騰と、その背景にある碾茶生産への転換について整理しました。今回の記事に繋がる前編です。
止市を迎えた宇治茶市場で、いま何が起きているのか
2026年7月31日(金)、JA全農京都茶市場では、2026年産茶の「止市」が行われました。
止市とは、その年の通常の荒茶取引に一区切りをつける販売会です。
この後に臨時の販売会が開かれる場合もありますが、形式上は7月31日が宇治茶の取引が一区切りついたということで、ここから市場価格が出揃い販売価格がおおよそ決まっていくことになります。
これで2026年の生産や相場の全体像が見えてきましたのでさっそくご案内していこうと思います。
(なんか海外の方にはこういう情報がめちゃくちゃ人気でビックリしてます!)
JA全農京都は、下記のように2026年産茶の止市を7月31日とすることを正式に案内していました。

歴史を感じさせるデザインですが、基本的に農協さんなどはこういうテイストです。
伝わること最優先という気持ちが伝わるデザインです。
さて、先日の朝日新聞の記事によると、今季の宇治茶市場における一番茶と二番茶を合わせた取引総額は約129億4千万円となり、過去最高だった前年の約1.3倍を記録しました。
大方の想像通り、価格を押し上げた中心にあるのは抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)です。
しかし、現在起きている変化は、単に「抹茶だけが値上がりする」という話ではないのです。
碾茶への生産転換によって、煎茶、玉露、かぶせ茶などの生産量が減少し、その影響は、ほうじ茶や京番茶の原料にまで広がっています。
荒茶はどのように茶商へ渡るのか

京都府内で生産された荒茶の一部は、JA全農京都の宇治茶流通センターに集められ、入札販売会に出品されます。
茶農家が収穫した生葉を蒸し、揉み、乾燥させて酸化を止めた、仕上げ加工前の半製品です。
JAからは、先の「荒茶入札販売会予定表」のように、茶種や産地ごとの販売日程が事前に案内されます。
茶商は販売会に並ぶ見本茶を確認し、茶葉の外観や香り、水色などを見極めたうえで、希望する価格を入札します。最も高い価格を提示した茶商が落札者となる仕組みです。
この価格をいくらつけるかというのが茶商の腕の見せ所もあります。
ただし、京都の茶がすべて全農茶市場を通じて取引されるわけではありません。
京都の茶取引には、主に次の三つの経路があります。
相対取引
茶商が生産者に依頼して作る契約栽培や、生産者から茶商への持ち込みなど、生産者と茶商が直接行う取引です。
市場取引
農協が生産者の窓口となり、見本茶を全農茶市場へ出品し、茶商が入札によって購入する取引です。
取引価格が明確なので今回のように市場規模としてご紹介できます。
茶商間取引
相対取引や市場取引で仕入れた茶を、茶商同士で売買する取引です。注文に必要な数量が不足した場合や、合組に必要な原料を補う場合などに行われます。
「ちょっと分けて」って感じの取引ですね。

宇治茶では、生産者と茶商が長く関係を築きながら、茶園や栽培方法を指定して原料を作る相対取引も重要な役割を担っています。
もともと昭和時代後期にJA全農京都が宇治茶の取引において現在のような入札方式の市場販売を開始しました。それまではほとんどが相対取引が茶商が茶農家から仕入れる主な手段でしたのです。
特に高級な碾茶や玉露では、茶問屋の要請に応じて栽培や製造に手間をかけ、契約栽培に近い形で相対取引されてきた歴史があります。(京都府公式サイト)
また京都で特徴的なのが経営形態です。農商分離以前の茶商が茶園を所持している形態があり、このため宇治の茶商は農家やJAなどから仕入れも行いますが、一般に生産部門も持っていたりするので、生産知識もあり農家に適切な生産指導を行うことが知られています。
相対取引と茶商の持つ生産部門。
このために全農茶市場の取引数量は、京都府内で生産された茶の総量と同じではありません。
市場を通さず相対取引された茶は、全農茶市場の取引数量には含まれないためです。
IMPORTANT NOTE
下の図①から読み取れるのは、あくまでも全農茶市場を通じて取引された一番茶の数量です。京都府全体の生産量を考える際には、市場取引だけでなく、相対取引による流通も含めて見る必要があります。
全農茶市場では碾茶の取引数量が増えた
京都府茶業会議所が公表した2026年6月19日時点の資料によると、全農茶市場における一番茶の取引数量は手摘みの「宇治てん茶」が9,130kg、機械摘みの「初茶てん茶」が541,771kgとなりました。

手摘みの宇治てん茶は、2025年の最終取引数量8,029kgから13.7%増加しています。
一方、以前公表された2025年6月11日時点の速報値6,140kgと比較すると、2026年の9,130kgは48.7%増となります。
つまり、「13.7%増」と「48.7%増」のどちらかが計算間違いなのではありません。
比較に使われている2025年の集計時点が異なります。
2025年6月時点の速報値と比べれば48.7%増、その後の取引(止市後に臨時の販売会がある)を含む2025年の最終値と比べれば13.7%増です。
年度別の推移を見る場合は、条件をそろえるため、2025年の最終値8,029kgとの比較である13.7%増を見るのが自然です。
初茶てん茶についても、2025年の486,512kgから2026年は541,771kgとなり、11.4%増加しました。
ただし、ここで増えているのは、あくまでも全農茶市場に出品された取引数量です。
相対取引へ回った数量が年によって変われば、市場に現れる数字も変化します。そのため、この数字だけで京都府全体の碾茶生産量の増減を断定することはできません。
取引数量が増えても、価格は下がらなかった

JA全農茶市場では、宇治てん茶と初茶てん茶の取引数量が前年を上回りました。
それでも、平均取引価格は下がっていません。
2026年の平均単価は、宇治てん茶が1kg当たり52,086円で前年比10.5%増、初茶てん茶が1kg当たり17,797円で前年比25.8%増となりました。
供給される数量が増えてもなお価格が上昇していることから、国内外からの需要に供給が追いついていない状況が見えてきます。
抹茶ブームがここまで勢いがあるとは、というのが個人的な感想です。
京都府茶業会議所も、2026年度は昨年度を上回る取引価格となり、碾茶だけでなく、各茶種全般で価格が高騰していると報告しています。(公益社団法人 京都府茶業会議所 ホームページ)
市場で決まった荒茶価格は、仕上げ加工、選別、合組、石臼挽き、缶詰、包装などの工程を経て、各茶舗の仕入価格や販売価格へ反映されます。
そのため、止市の翌日からすべての商品が一斉に値上がりするわけではありません。
当店でも6月に値上げしたものや今日8月1日に値上げとなったものまで様々です。
PRICE OUTLOOK
価格改定は、2026年8月から10月にかけて順次進むと考えられます。
茶舗が保有する在庫や仕入れ契約の時期によって、実施時期や値上げ幅は異なります。
2025年度産の茶葉を多く持っているところは値上げ幅が小さいのですが、2026年度産に頼らざるを得ないところは値上げ幅も大きくなります。
抹茶を増やす一方で、他のお茶が減っている

同じ茶園で、すべての茶種を同時に増産することはできません。
茶農家が抹茶の原料となる碾茶の生産へ転換すれば、その分、これまで作られていた煎茶、玉露、かぶせ茶などの生産量は減少します。
煎茶や玉露に関してはペットボトルの台頭で、日本人が良いお茶を急須で飲むということが少なくなったため、取引量が減っていました。
そこにこの抹茶ブーム。茶農家さんはもちろん、売れる碾茶へ生産をシフトします。
2026年の全農茶市場における一番茶の取引数量を見ると、ほかの主な茶種はこのように減少しました。
煎茶は66,344kgで、前年の77,093kgから約14%減少。
かぶせ茶は23,216kgで、前年の28,401kgから約18%減少。
玉露は23,897kgで、前年の29,767kgから約20%減少。
手摘み玉露も1,361kgから1,171kgへ減少。
さらに、番茶やほうじ茶の原料として主に使われる刈直(かりなおし)は84,993kgから51,654kgとなり、前年から39.3%減少しています。
2023年の130,278kgと比較すると、半分以下の数量でした。
供給量が減れば、当然ながら価格にも影響します。そう、値上がりです。
京都府茶業会議所の報告では、玉露、かぶせ茶、煎茶の平均価格は前年から5割から8割上昇しました。
刈直の平均価格は1kg当たり2,850円となり、前年比で約132%上昇しています。(公益社団法人 京都府茶業会議所 ホームページ)
消費者から見れば残念ですが、一次産業である農家さんは潤う。
日本の米と一緒でバランスが取れていないのが現状です。
ほうじ茶も無関係ではない
最近スーパーやデパートのお茶売り場にほうじ茶や煎茶のやなぎが減ったように感じませんか?
抹茶への生産切り替えが進んだことで抹茶以外のお茶、特にほうじ茶や番茶の生産量が大幅に落ちています。
今年の相場では、お財布に優しいお茶が作れないのが現状です。

ほうじ茶は、茶園で「ほうじ茶」という茶葉を栽培して作るものではありません。
そのため、碾茶への生産転換によって、煎茶や番茶、茎などの原料が減少したために、ほうじ茶の仕入価格にも影響が及びました。
抹茶の価格高騰を起点として、煎茶、玉露、かぶせ茶、ほうじ茶まで、日本茶全体の価格構造が動き始めているのが現状です。
この動きはおそらく来年も変わらないと思います。
「抹茶が値上がりする」という一つの現象だけを見るのではなく、その背後で、ほかの茶種の供給が細くなっていることにも目を向ける必要があります。
手摘みの宇治てん茶は、簡単には増やせない

全農茶市場では、一番茶の手摘み碾茶を「宇治てん茶」、機械摘みの碾茶を「初茶てん茶」として区分しています。(京都府公式サイト)
機械摘みでは、短時間で広い面積の茶園を収穫できます。
一方、手摘みでは、摘み子が新芽を一芽ずつ確認しながら摘み取ります。
効率が悪いように思われがちですが、手摘みは古葉や枝の混入が少なく、高級茶にふさわしい品質を得ることができます。
全農茶市場における宇治てん茶の取引数量は、2022年が10,839kg、2023年が8,188kg、2024年が10,216kg、2025年が8,029kg、2026年が9,130kgでした。(公益社団法人 京都府茶業会議所 ホームページ)
ただし、これは先に触れたとおり市場取引された数量であって、相対取引された宇治てん茶は含まれていません。
また当店で取り扱う製茶辻喜は茶農家でありながら、製造まで行うので流通経路としては
製茶辻喜 → 当店 → 消費者
となるため、取引数量を全農が知ることはありません。
したがって、この推移だけで京都府全体の手摘み碾茶の生産量を判断することはできないのですが、
それでも、世界的な需要が急増するなかで、手摘みの宇治てん茶を短期間に大幅増産するということが難しい点は変わりません。
手摘み碾茶の生産には、茶摘みを担う摘み子だけでなく、覆下茶園を管理する人、摘採時期を見極める技術、収穫した生葉を速やかに製茶する設備と人員が必要です。
手摘みを担うお茶摘みさんに関しては別のコラムで紹介しています。
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抹茶需要が高まる一方で、手摘みの宇治てん茶を短期間で増産することは容易ではありません。摘み子の不足や、手摘みを支えてきた地域の仕組みが失われてきた背景を整理した関連記事です。
また、新しく茶樹を植えても、十分に収穫できるようになるまでには長い年月が必要です。
需要が増えたからといって、工業製品のように翌年から生産量を倍にすることはできません。
高品質な宇治てん茶は、土地だけで生まれるものではなく、人の手、時間、技術によって支えられています。
値上がりは、宇治茶の価値を伝える機会でもある
価格の高騰は茶を販売する私たちにとっても、大変心苦しいことです。
申し訳ないと思いながら値上げをしているのですが、仕入れ価格が1.5倍になったからと言って
販売価格を1.5倍にはできません。それではお客様の負担が大きくなりすぎます。
なのでおおよそ20%くらいの値上げにとどめています。
あとは企業努力なのですが、梱包資材や光熱費なども値上がっているので結構ギリギリです。
一方で、現在の世界的な抹茶需要は、宇治茶が継承してきた伝統や品質を国内外へ伝える大切な機会でもあります。
海外の方から当店の抹茶缶を写真に撮って「届きました!楽しみに飲みます♪」なんてメールが来る日が来るとは思ってもいませんでした。
これは私たちが抹茶の専門店としてお客様にいただける最高の栄養。
これだけでお酒が進みます。
覆下栽培、手摘み、摘採時期の見極め、荒茶の選別、仕上げ加工、合組、石臼挽き。
皆様の手元に届く一缶の抹茶が完成するまでには、その缶からは見えない多くの人の手仕事が重ねられています。
現在、海外では「MATCHA」という言葉が広く知られるようになりました。
しかし、同じMATCHAという名前で販売されていても、産地、品種、栽培方法、摘採方法、製茶技術によって、
香りや味わい、旨味は全く違います。
宇治抹茶は、単に京都で作られた緑色の粉ではありません。
生産者と茶商が長く関係を築き、栽培から製茶、仕上げ、合組まで品質を追求してきた日本を代表する高品質な抹茶です。
価格が上がったという事実だけではなく、なぜその価格になるのかまで伝えること。
それが、これから宇治茶を扱う者に求められる役割だと考えています。
2026年産茶の価格は、これから商品へ反映されます
2026年の宇治茶市場は、7月31日の止市を迎えました。
しかし、止市は価格高騰の歯止めを意味するものではありません。
市場や相対取引で決まった2026年産荒茶の価格は、ここから各茶舗の仕入価格と販売価格へ反映されていきます。
丸竹夷にも、仕入先から価格改定の案内が届き始めています。
できる限り安定した価格で商品をご案内したいと考えておりますが、抹茶をはじめ、煎茶、玉露、かぶせ茶、ほうじ茶などの一部商品では販売価格を見直す必要があります。
今回の価格高騰の背景にあるのは、一時的な抹茶人気だけではありません。
茶農家の減少、摘み子の不足、碾茶への生産転換、相対取引を含む複雑な流通、そして高品質な宇治茶を作り続けることの難しさがあります。
値上げとなるのは心苦しいですが、その価格以上に、その一服が生まれるまでに重ねられた仕事や背景も、できる限り皆様に伝えていきたいと思います。
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