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京都の名庭からはじめる日本庭園の基礎知識


京都には名庭と称される庭園が数多く存在しています。東福寺、龍安寺、建仁寺、高台寺、天龍寺などなど。四季の移り変わりによってまるで生きているかのように様々な表情を見せてくれる庭園ですが、その見方を知っているだけで、今よりももっと京都を楽しんでもらえると思います。基本的な庭園の様式はたったの3つ。日本庭園の基礎知識をわかりやすく紹介します。

次の京都旅行では庭園に向き合う時間が少しだけ長くなりますように。

 



日本庭園と西洋の庭園との違い

蓮華寺
蓮華寺(京都市左京区)




寺院に行くと目の前にひろがる日本庭園。西洋の庭園との大きな違いは、日本が自然の風景を表現した仏教思想を形にしていることに対して、西洋では自然を人工化し直線的で幾何学的なデザインを庭園の形としています。

特に日本では寺院で造られることが多いのに対して、西洋では城や貴族の館に付随したものがほとんど。キリスト教会に庭園がないのも大きな違いです。 日本庭園は中国や朝鮮など大陸からの文化や思想に影響されながら独自に発展していきました。


日本庭園として私達が見る今の姿は、都が奈良の平城京から京都の平安京へと移った8世紀末以降に急速に増え始めます。



日本庭園の3大様式「池庭」「枯山水」「露地」

祇王寺
祇王寺(京都市右京区)

 

日本庭園のイメージとして、大きな池、石組み、樹々、起伏のついた山などがあると思います。特に平安時代前期は公家や天皇が広大な敷地に海の風景を表現しており、中でも池は海そのものとして庭園の中心的パーツとして書かせませんでした。

京都市右京区嵯峨にある大覚寺には、平安時代前期に嵯峨天皇の苑地として作られた庭園の遺構とされる広さ3万平方メートルもある大沢池があり、平安時代前期の様式を伝える貴重なものとして遺っています。


平安時代の特徴としては、憧れの自然を身近に造形したいという写実的な表現方法の「池庭」が特徴です。

そして、室町時代には禅宗寺院で水を使わない「枯山水」の庭園が生まれます。ほぼ同時期に生まれたのが茶室へと続く簡素な庭園である「露地」。現代の日本庭園の三大様式はこうして誕生しました。次からは、京都の名庭を参考に日本庭園の三大様式「池庭」「枯山水」「露地」を見て行きましょう。



日本庭園の三大様式その1「池庭」について

平等院鳳凰堂
平等院(京都府宇治市)

 

「池庭」とは、その名の通り池を中心として自然の景観を取り込んだ様式。平安時代の公家や天皇が造らせたり、江戸時代の大名が造らせた庭園に多く見られます。金閣寺や宇治の平等院に代表される浄土庭園も「池庭」のひとつ。

池の周りの園路を回遊しながら庭園の景色の変化を感じるスタイルを「池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)」と呼び、京都の金閣寺や宇治の平等院などが有名です。

他にも池庭には、園路を歩いてではなく舟で回遊する「舟遊式(しゅうゆうしき)」、庭園の外にある景色を庭の重要な構成の一つとしておいた「借景式(しゃっけいしき)」などのスタイルがあります。

 

 

日本庭園の三大様式その2「枯山水」について

龍安寺
龍安寺(京都市右京区)

 

室町時代になると平安時代までの池庭から「枯山水」の庭園へと変わっていきます。都市の限られた空間で大自然を表現しようと考えられた様式。

枯山水とは、水を使わずに白砂を水に見立て、石組みを主体として自然の景観を表現する様式です。室町時代の禅宗寺院で生まれた枯山水は、静けさに包まれた空間が訪れる人の心を落ち着かせてくれます。また海外でも枯山水様式の庭園はファンが多くいます。


水に見立てた白砂は人の手によって波紋が描かれ、まるで現代アートのようでもあります。京都では龍安寺や東福寺、建仁寺など枯山水で有名な寺院が数多く現存しています。

 

 

日本庭園の三大様式その3「露地」について

青蓮院門跡
青蓮院門跡(京都市東山区)

 

「露地」は枯山水と同じく室町時代に生まれた様式で、池庭や枯山水のように寺院などの庭園として作られているものとは異なり茶室に付属して設けられた茶庭のことをいいます。

茶室へ続く通路であると同時に、より身近に自然の世界を感じ雑念を払ってもらうためのあつらえとなっています。その為、華美な装飾はなくとても簡素な作りは日本独特の侘び寂びの精神に繋がります。

露地は草庵式、書院式ともいい、このような様式になったのは茶の湯で最も理想と言われる市中の山居」であることに繋がりがあります。

「市中の山居」とは、都に居ながらにして閑寂の境地を味わうという茶の湯の世界の言葉そのためには都の中の小さな空間に無辺に広がる自然の力を感じさせる事が必要で、これを具体化すべく露地には飛石やつくばい、石灯籠などが置かれています。大徳寺の塔頭のひとつ高桐院の庭は見事なものです。

 

 

日本庭園の4大要素

東福寺
東福寺(京都市東山区)

 

次に、日本庭園のどの様式においても共通する4つの要素をご紹介します

1つめは「水」

水はすべての生命の源であり、全てのものを洗い清めるという事から最も大事にされています。また、水はそれぞれの様式によっても使われ方は様々で、池庭では大沢池に代表されるような広大な苑地であったり、枯山水では実際に水を流さずに白砂で水の波紋や流れを表現しています。露地では茶の湯のためにその場を清める「水打ち」や、口を清めるための「つくばい」に使われています。

2つめは「石」

古代より日本には山や海のとりわけ大きな石に神が宿るという信仰がありました。仏教思想でもそれに似たものがあり、日本庭園に配された石はいくつかの組み合わせで阿弥陀三尊を表現していたり、縁起の良い鶴亀を表していたりとその庭園の中でも重要な役割を持ちます。

3つめは「植栽(しょくさい)」

庭園に植えられる植物のことで、どの庭でも松が植栽の主役となることが多く、遠方の山などを利用する借景という方法では、植栽の松などが遠くの景色に調和し、どこまでも続く広大な空間を演出しています。


4つめは「景物(けいぶつ)」

池に掛けられた橋や、石灯籠、つくばい、敷石、飛石、竹垣などといったいわゆるインテリアのことをいいます。東福寺の方丈庭園は景物である敷石を斬新に使用していることで有名です。

 

 

日本庭園を知るなら京都がオススメ!

 日本庭園の3大様式である「池庭」「枯山水」「露地」、4大要素である「水」「石」「植栽」「景物」。この7つを実際に見てみようとするなら京都へ行くのが一番

平安時代から室町時代にかけて形成された日本庭園の様式は、京都へ行けば色々な寺院で体験することが出来ます。

平安時代から続く日本庭園もあれば、近代の作庭家による日本庭園もあります。今まで眺めるだけだった日本庭園の見どころを知ると、きっと京都の庭園の種類の多さに驚くはず。池庭も枯山水も露地も、京都駅からバスに乗ればいくつも出会うことが出来ます。


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